ナース漫画大賞2025 エピソード大賞
「忘れられない患者さん(看護師視点)」部門 大賞受賞作品
患者さんの5分、私の5分
受賞エピソード
看護師1年目の時の話です。
骨髄移植後、再発で末期の白血病の患者さんを担当した日の事です。20代後半の患者さん、自力では動けない程に衰弱していました。頻回な下痢が続いていたのですが、排泄にオムツを使用したくないという強い希望があり、差し込み便器を使用しての排泄介助が必要でした。また、MRSAがあり感染隔離下でもありました。
正午過ぎ、その患者さんから、「ちょっと来て欲しい」とナースコールがあり伺った所、「便がでそうだから、差し込み便器を持って来て欲しい。」との事。私は、いつも差し込み便器が置いてある場所に便器を取りに行きましたが、ありません。近くにいた看護助手さんに聞くと、洗浄と拭きあげが間に合っていないため、奥の倉庫に取りに行く必要があるとの事。急いで取りに行き、病室前でエプロンと手袋を装着して、患者さんの部屋に入りました。
入るやいなや、患者さんが言いました。
「もういいです。漏れてしまいました。あなたは、僕の気持ちを全く理解していない。仕事をなめている。僕がナースコールを押してから何分経っていると思いますか。上の人を呼んで来てください。」
正直なところ、私はどうして患者さんがそんなにも怒っているのかが分からなかった。「私はなるべく早く便器を持っていこうと努力したのに何故、責められなければいけないのか。だいたい時間にしても5分以内には持っていったはずだ。私の対応に何か落ち度があったのか?」という思いが根底にあった。しかし、まずは謝罪をし、患者さんからの要望通り副師長を呼んだ。
後に副師長との面談の場を設けて頂いた。副師長から一言、「痛みがあって、苦痛の中にある患者さんにとっての5分と、私たちにとっての5分とは時間の長さが同じようで違うんだよ。ものすごく長く感じたんじゃないかな。」と伝えられ、はっとした。その言葉を聞くまでは、「私だって一生懸命、便器を探して早く持っていく努力をした。私は間違っていない。」と自分の正しさで心をいっぱいにして、患者さんの思いを汲み取る余地を無くしてしまっていたのだ。副師長の一言で、患者さんの気持ちがどっと押し寄せてきた。20代、おしゃれが大好きでファッションにもこだわりがある方、結婚目前にて再発、そして余命宣告、新しい仕事も決まっていたのに。私たちが当たり前にトイレというプライベート空間で思うままにする排泄という行為をベッド上でせざるを得ない状況。頑なにオムツを嫌がっていたのに、失禁させてしまった。「辛かっただろうな。」と、心から思った。
その後、もう一度、患者さんの元へ一人で行って、謝りに行った。患者さんから、「分かってくれてありがとう。」との言葉をかけて頂けた。この経験から、どんなに多忙であっても排泄や疼痛コントロールの為のレスキュー薬を使用している患者さんのコール対応は迅速に行うよう特に気をつけている。